2010年12月9日

「振り込め詐欺」に疑われました

　ある刑事事件。裁判所から国選弁護人に選任され、さっそく新潟市内のある警察署へ向かい、被疑者（犯人と目され捜査を受けている人。仮にＡさんとします。）と面会しました。
   Ａさんはまだ若い男性。警察署に泊められて取調べを受けることが初めての経験だったらしく、憔悴し切ったようすで「田舎の親に電話して知らせて欲しい」と頼んできました。自分がやったことはほぼ認めていました。
   警察署から事務所に戻ってすぐに、東北地方のある地方都市のＡさんの実家に電話しました。受話器が上がり、東北弁で「もすもす」という甲高い声が聞こえてきました。かなり高齢の女性のようです。
   「突然お電話してすみません。わたし、新潟市で弁護士をしている金子って言います。Ａさんのお母さんですか？」「ハァ？　┄┄┄┄　はぃ、そうだども。」
   その後は、なるべく分かりやすい言葉を探しながら、ゆっくりと、息子のＡさんの状況を伝えようと努力しました。しかし、受話器の向こうはただ黙っているだけ。だんだん心配になってきて、「話だけでは分からないと思うので、手紙を書きますから、それを読んで私に電話ください。」と言って、電話を切りました。
   手紙を出しても電話が来ないので、数日後こちらから電話をしました。すると、今度はお父さんらしい男性が出てきて「息子がそんげなことするなんて、すんずらんねぇなぁ。」と言うので、またゆっくり丁寧に説明しました。
   「そんだば、今度こっちから電話するんで。」と電話が切られました。一応話は通じたようだ、やれやれ、という気持ちでいました。
その２日後、お父さんから電話がありました。「ちっと心配で、あんたからの手紙持って警察に相談に行った、「振り込め詐欺」じゃねぇかって。そしたら、刑事さんが「金を要求しているようでないから、たぶん本物の弁護士さんだ。安心しなさい。」と言ったもんで、電話すたんだ。疑って悪かったのう。」
   「それは良かったですね。」などと調子を合わせたものの、受話器を置いて何だか複雑な気分になりました。まぁ、「振り込め詐欺」への注意が東北地方の田舎まで届いているのは良いとして、私の話し方はいかにもその一味らしいという話しぶり（？）だったのでしょうか？
   少し凹みました。

弁護士　金 子　　修