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2008年9月3日

イラクでの自衛隊空輸活動は憲法違反

   4月17日,名古屋高裁で自衛隊のイラク派遣差止訴訟の判決がありました。当時は新聞等でも大きく報道されたのでご記憶の方も多いと思います。
  この裁判は,一般市民が国に対して,イラク特措法に基づく自衛隊の派遣の差止,派遣が憲法違反であること,慰謝料請求を求めた事件で,名古屋高裁では,原告のこれらの請求については,不適法としまたは慰謝料を認めず,控訴を棄却しました。
  それなのに,この判決が画期的として取り上げられたのは何故でしょうか。
  理由のひとつは,本件の自衛隊の空輸活動が憲法9条に違反すると判断したからです。
  イラク特措法では,武力行使を禁止し,また,活動地域を非戦闘地域に限定しているのですが,航空自衛隊の空輸活動は軍事上必要不可欠な後方支援にあたり他国による武力行使と一体化した行動である,バグダッドの現状は戦闘地域であると認定して,違法,違憲という判断をしました。
  第二の理由は,「平和的生存権」という権利を正面から認めた点です。憲法前文には,全世界の国民が「平和のうちに生存する権利を有する」と書かれていることや憲法13条の幸福追求権から平和的生存権が導かれると言われていたのですが,その権利の内容は不明確であり裁判で争うことができる具体的な法的権利性を認めることは難しいと言われていました。
  しかし,名古屋高裁判決は,「裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合がある」として,具体的権利性を認めました。
  今までの裁判所は,高度に政治的な問題は憲法判断を避けるべきとして憲法9条違反か否かの判断を回避したり,平和的生存権についても裁判においてよりどころとできる権利だとはほとんど認めて来なかったのです。
  そういう態度をとっていた裁判所が,上記のような判断を下したので,画期的判決としてとりあげられたのでした。
  この名古屋高裁判決については、政府に対し判決の趣旨を考慮して自衛隊のイラクへの派遣の中止、全面撤退を求める旨の日弁連会長声明が出され、また、新潟県弁護士会でも同趣旨の総会決議を行っています。
  さて,先の司法制度改革では裁判員制度の導入などが決められたのですが,そもそも,改革の趣旨は,法の支配を国の隅々まで行き渡らせるということだったのではないでしょうか?恣意を許さないために,事前に定められた法規に則って物事を運用し,解決していくというのが法治国家です。
  そして,法令の解釈適用は最終的には裁判所が行うのですから,裁判所が違法・違憲と判断した以上,行政はその判断を尊重し,しかるべき措置をとるというのが法治国家としてあるべき姿なのではないでしょうか。
  しかしながら,残念なことに,この名古屋高裁の判決に対して,行政のトップ(総理大臣)が軽んじるような発言を行い,また,自衛隊の幹部がお笑い芸人のセリフを引用したりして,行政側が本判決を尊重しようという姿勢が見られませんでした。
  国が率先して判決を無視するが如き態度をとるならば,法の支配を国の隅々まで行き渡らせるなどということは,残念ながら夢のまた夢ではないかという気がします。

弁護士 小 淵 真 史

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