新潟合同法律事務所(新潟県弁護士会所属)

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2010年10月29日

ノーモア・ミナマタ新潟訴訟で和解の基本合意が成立

 第3回和解協議で基本合意が成立
 7月8日の第5回口頭弁論で、草野裁判長から和解の勧告がなされ、直ちに最初の和解協議が行われた(第1回和解協議)。和解協議は、9月16日の第6回口頭弁論の後も行われ(第2回和解協議)、さらに10月21日の第7回口頭弁論の当日(第3回和解協議)も弁論に引き続いて行われた。
 この間、裁判所での和解協議とは別に、原告と国、昭和電工の間で、数回にわたって和解期日間の協議が行われた。協議には、原告が所属する阿賀野患者会、新潟水俣病弁護団、新潟水俣病共闘会議(新潟水俣病3団体)も関係当事者として参加し、新潟水俣病の全被害者の救済に向けた住民健康調査の実施、水俣病特措法の救済措置のあり方や被害地域の振興等の問題等についての率直な意見交換がなされた。
 このような協議を積み重ねて、ようやく10月21日の第3回和解協議で、和解についての基本合意が成立した。

 公平な第三者委員会で判定
 今回の基本合意には、①原告の救済に関する施策(対象者の判定方法、支給内容)、②原告を含む新潟水俣病全被害者の救済に関する施策(その他の施策)、③責任とおわび、④紛争の解決に関する事項が内容として盛り込まれている。
 原告の関係では、この基本合意に基づいて原告と被告が「第三者委員会」を設置し、そこで個々の原告が新潟水俣病の被害者であるかどうかについての対象者の判定がなさる。判定資料には原告を診断した主治医が作成する共通診断書と、新潟県が指定する医療機関の医師が作成する「第三者診断結果」が用いられる。そして、全ての原告の判定が終了したとき、速やかに和解を成立させるとしている。これは、ノーモア・ミナマタ国賠訴訟で熊本地裁が示した所見と同じ方式であるが、これまでの行政による判定権独占の壁を打ち破り、「司法が関与した公平な第三者委員会による判定の実現」を実現するものとして高く評価してよい。
 水俣病と判定された対象者には、療養費(医療費)のほか、一時金が210万円、療養手当が1月1万2900円から1万7700円支給される。これは熊本地裁の示した解決所見と同一である。このほか、一時金に対する加算金(団体加算金)が合計2億円支払われるが、この金額も熊本地裁の所見と遜色のないものといえる。

 全被害者に介護費用の一部を負担
 これまで原告や新潟水俣病3団体は、国に対して、全被害者の救済のためには被害地域での住民健康調査が不可欠であることや、水俣病特措法の救済措置の申請受付については期限を設けないようにすべきだと主張してきた。基本合意では、国が、「水俣病にみられる症状に関して不安を持っている方々が医学的な診断や相談を受けられるような方策について検討することとし、原告らと引き続いて協議する」とされたほか、国と昭和電工は、特措法による救済措置の周知に努めることになった。
 また、これまで原告が強く要請してきた「介護の充実」の課題について、基本合意では、国と昭和電工が「全ての新潟水俣病の被害者の福祉の充実のために必要な措置を取ることとし、その具体的な立案について検討する」ことになった。
 この点で特に注目したいのは、昭和電工が、「新潟水俣病被害者の福祉の充実に必要な措置」として、新潟水俣病被害者のうち、要介護認定者や要支援認定者が介護保険サービスを利用し、利用者負担額を自分で負担したときは、要介護認定者の場合は1月について一律5000円、要支援者の場合は一律1500円を支給することを表明したことである。この施策は、支給金額は必ずしも十分ではないにしても、原告だけでなく新潟水俣病全被害者を対象としたものであり、画期的なものとして評価したい。
 さらに、基本合意では、慰霊碑の設置や水俣病犠牲者慰霊祭の開催について、国と昭和電工が、「県、市を含む全ての関係者の合意、参加を求めつつ、関係者と協議し、その実現に向けて努力する」としている。

 全被害者救済の運動は終わらない
 今回成立した基本合意では、全被害者救済に不可欠な住民健康調査の実施や特措法の救済措置の申請受付の期限を設けないことについては合意に至らず、これからの課題となった。
 基本合意が成立した後に新潟市内で報告集会が行われた。集会の冒頭で、原告団の山﨑会長は、全被害者に対して昭和電工が介護費用の一部負担をすることになったことについて、「多くの方に喜んでもらえる」と顔をほころばせながらも、全被害者救済のための運動は「これからだ」と訴えた。
 昨年6月12日、第1陣原告27名の提訴でスタートした「ノーモア・ミナマタ新潟全被害者救済訴訟」は、この間も相次いで追加提訴がなされ、9月末時点の原告数は、第10陣原告を含めて174名となったが、今回の基本合意の成立で、第1陣原告の提訴から1年有余を経て、和解による解決に向けて大きな一歩を踏み出すことになった。
 
  弁護士 中 村 周 而

著者:

さまざまな問題を依頼者の皆様と一緒に考え、解決をめざします。 最近は、社会の高齢化が進む中で、高齢者をめぐる貧困、医療、介護、家族との関係などさまざまな問題が深刻さを増しています。私もそうですが、団塊の世代を含めた高齢者が、もっと声を大にして問題の深刻さを訴える必要がありそうです。

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