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2018年5月25日

親権者の父が母に親権に基づき子の引き渡しを求めることが権利の濫用に当たるとされた事例

本件は、離婚して子の親権者になった父(抗告人)が、子の母に対して親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めたのは「権利の濫用」にあたるとされたケースです(平成29年12月5日最高裁第三小法廷決定)。

 

そもそも、離婚した父母のうち子の親権者と定められた一方が、民事訴訟の手続きで、法律上監護権を有しない他方に対して親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができるのか。

この点について今回の最高裁決定は、「求めることができるとできると解される」と述べた上で、「もっとも、親権を行う者は子の利益のために子の監護を行う権利を有する(民法820条)から、子の利益を害する親権の行使は、権利の濫用として許されない」と述べ、結論として、父(抗告人)が親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めたのは、「権利の濫用」に当たると判断したのです。

 

なぜ、最高裁決定は、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めたことが「権利の濫用」に当たると判断したのか。それは、①「本件においては、長男が7歳であり、母は、抗告人(長男の父)と別居してから4年以上、単独で長男の監護に当たってきたものであって、母による上記監護が長男の利益の観点から相当なものではないことの疎明はない」。②「母は、抗告人を相手方として長男の親権者の変更を求める調停を申し立て」ており、仮に長男が父に引渡された後に、親権者が母に変更され、母に引き渡されることになれば、長男は、短期間で養育環境を変えられ、その利益を著しく害されることになりかねない」。③他方、抗告人は、母を相手方として、子の監護に関する処分として長男の引渡しを求めることができると解される、この手続では、子の福祉に対する配慮が図られているが(家事事件手続法65条等)、抗告人が、子の監護に関する処分としてではなく、親権に基づく妨害排除請求として長男の引渡しを求める「合理的な理由」はうかがわれない。そうすると、上記の事情の下では、「抗告人が母に対して親権に基づく妨害排除請求をして長男の引渡しを求めることは、権利の濫用に当たる」としています。

 

今回の最高裁決定で、父の請求が「権利の濫用」であると判断した決め手になったのは、子の父が仮処分命令の申立て(民事保全処分)の手続きを利用したことです。木内道祥判事は補足意見で次のように述べています。

「父と子のいずれが子を監護することが適切かを子の利益を基準として定め、適切な者への子の引渡しを求める手続としては、家庭裁判所の子の監護に関する処分及びそれを前提とする保全処分という手続」があり、この手続では、「実務上、ほとんどの場合に、家庭裁判所調査官が関与し、子の意思の把握に大きな役割」を果たしている。これに対し、「民事訴訟の手続による親権に基づく子の引渡請求の本案訴訟及びそれを本案とする民事保全処分においては、権利の存否及び保全の必要性について、専ら、当事者(本件でいえば、子の父と母)が裁判所に対して主張と証拠の提出を行わなければならず、裁判所が子の利益のために後見的役割を果たすことは予定されて」いない。

したがって、「抗告人が家庭裁判所における子の監護に関する処分としての子の引渡しを求めるのであれば、子の利益を害するおそれについては十分な審理を行った上での裁判所の認定・判断を期待できるが、抗告人は、あえてその方法によることなく、民事訴訟の手続による親権に基づく子の引渡請求を本案とする民事保全処分としての子の引渡しを求めて」いるのであり、このような子の引渡請求は、「子の利益のためにするものということはできず、権利の濫用として許されない」としています。子の利益を基準に考えてれば、今回の最高裁決定は、大変説得力のある判断といえるでしょう。(弁護士 中村周而)

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さまざまな問題を依頼者の皆様と一緒に考え、解決をめざします。 最近は、社会の高齢化が進む中で、高齢者をめぐる貧困、医療、介護、家族との関係などさまざまな問題が深刻さを増しています。私もそうですが、団塊の世代を含めた高齢者が、もっと声を大にして問題の深刻さを訴える必要がありそうです。

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