新潟合同法律事務所(新潟県弁護士会所属)

電話番号:025-245-0123(受付日時:平日9:00~17:00)
受付日時:平日9:00~17:00

相談受付フォーム(予約専用)

相談受付フォーム(予約専用)

2015年3月6日

国が提出した「排水」資料が明らかにしたもの

 

 2月23日に開かれたノーモア・ミナマタ第2次新潟訴訟の弁論で、被告国は、昭和35年当時、チッソ水俣工場と同様に水銀を使っていた6社6工場の「排水の分析結果」の調査報告書を証拠として提出しました。

 

 経済産業省の4人の担当者が連名で作った報告書の内容は、通産省(当時)が東京工業試験所に排水分析を依頼した「6社6工場の中に、昭和電工鹿瀬工場は含まれていない」という簡単なものですが、衝撃的だったのは6工場全部について、昭和35年12月から36年にかけて4回にわたって排水溝から採取した排水中に、水俣工場と同程度かそれよりも高値の総水銀量が検出されているデータが添付されていたこと。マスコミもこの「排水」資料を大きく取り上げました。

 

 これまで国は、昭和34年当時、阿賀野川には水俣病被害が発生しておらず、「危機的状況」ではなかったから、水質二法を適用して鹿瀬工場の排水規制をすることはできなかったと主張してきましたが、今回、国が提出した証拠によって、鹿瀬工場を含む同種工場の排水中に水銀が流出しており、チッソと同様に水俣病が発生する危険があったことが裏付けられたといえるでしょう。

 

 昭和34年7月に熊本大学が有機水銀説を発表したことで、水俣病の原因物質がチッソ水俣工場から流出した有機水銀であることが明らかになり、国会でも全国のアセトアルデヒドや塩化ビニール製造工場からの排水により水俣病発生の危険があることが指摘されていました。

 

 そこで、通産省、厚生省、水産庁、経済企画庁の4省庁は、昭和35年2月、「水俣病総合調査研究連絡協議会」を設置し、通産省は同種工場の排水の水質調査を担当して全国の同種工場の排水分析を東京工業試験所に依頼うことになったのです。

 

 これまで原告弁護団は、昭和36年3月6日に開かれた第4回の協議会に提出された可能性のある6社6工場についての「排水分析結果」を独自に入手し、この「排水分析結果」には6工場全ての排水中に水俣工場と同程度かそれよりも高値の総水銀量が検出されていると主張してきましたが、国は、原告が提出した「排水分析結果」は「不知」であり、協議会に提出されたかどうかも確認できないとして無視してきました。

 

 しかし、今回、国が報告書に添付して提出した「排水」資料は、すでに原告が提出している「排水分析結果」の基礎データであることが明らかであり、データの数値もほぼ同じです。

 

 国は、「排水」資料に記載された6工場に鹿瀬工場は含まれていないと弁明していますが、「排水」資料の工場名が塗りつぶされているため実名が確認できません。昭和35年当時、アセトアルデヒドと塩化ビニールの製造工場は全国で24工場あり、鹿瀬工場の水銀使用量は全国第2位でした。国は6工場をどのような基準で選んだのかも不明ですし、国が鹿瀬工場を調査対象の6工場から外したとすれば、どのような理由で外したのか、納得のいく説明をすべきでしょう。

 

 国が提出した「排水」資料によれば、昭和36年当時、国が、鹿瀬工場をはじめとする全国の同種工場の排水中に水銀が流出している事実を十分に認識していたことが明らかです。

 

 この資料をもとに、鹿瀬工場をはじめ同種工場の工場排水から検出された水銀が水俣病を発生させる危険がないかどうかについて、国が協議会で真剣に検討し、水質二法に基づいて排水規制を行っていれば、新潟での第2の水俣病の発生を未然に防止することができたはずです。

 

 しかし、国は、水俣病発生の危険性についての検討がなされた第4回の協議会の議事録を公表せず、「協議会」そのものを消滅させ、第2の水俣病の発生に加担した国の責任を免れるため、今回提出した「排水」資料を半世紀余りにわたって隠ぺいしてきたのです。今回の「排水」資料は、そのことを端的に示したものといえるでしょう。

 

(弁護士 中 村 周 而)

著者:

さまざまな問題を依頼者の皆様と一緒に考え、解決をめざします。 最近は、社会の高齢化が進む中で、高齢者をめぐる貧困、医療、介護、家族との関係などさまざまな問題が深刻さを増しています。私もそうですが、団塊の世代を含めた高齢者が、もっと声を大にして問題の深刻さを訴える必要がありそうです。

« 次の記事
トップへ戻る
新潟合同法律事務所