新潟合同法律事務所(新潟県弁護士会所属)

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2019年1月10日

言葉にする努力

明けましておめでとうございます。

この5月から新たに〇○元年がスタートすることになりますが、国内に限っていえば、明治、大正、昭和を経て、ようやく平成という戦争のない時代を過ごすことができたのはなによりでした。改めて「日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎」となった平和憲法の果たしてきた役割の大きさを実感させられますね。

もっとも、〇○元年がスタートしても、私たちが直面している様々な問題は元号の切り替えによって都合よく終わるわけではありません。これまでと同じようにそれぞれの事案の解明と解決に向けての取り組みが求められますが、私は、「言葉にする努力」を心がけたいと思います。

事件のポイントを訴える場合、どのような言葉や表現をするのが適切かというよりも、どのような観点で物ごとをみるか、洞察力の問題を含む場合が多く、特に宗教事件の場合は、言葉にするまでに多くの時間を費やすことも珍しくありません。

平成の初期に遡りますが、あるカルト教団の詐欺的な伝道(入教勧誘)について裁判所が不法行為に該当し、違法であると判断するまでの間、十年余の年月が必要でした。最近の事例ですが、教団内で起こったパワハラ事件について、信者である被害者が教団内部でそのことを問題にしたら、逆に信者が排斥(除名)処分になったという事件がありました。被害者が原告となり、教団を被告として慰謝料請求を求めて提訴したところ、教団から、排斥処分は、信仰や教義に密接に関わる問題であり、その当否を裁判所が判断することは、信教の自由に抵触するから「法律上の争訟」には当たらず却下されるべきだ、という反論が出されました。しかし、教義にもとづいて排斥処分がなされたとしても、それはパワハラを隠蔽するための口実であって不法行為にあたるという被害者の見方にも説得力があります。この場合も、どのような観点で物ごとをみたらよいかを時間をかけて考え、言葉にする努力を試みることが必要です。

麻原をはじめオウム真理教幹部の死刑執行があった昨年7月、作家の高村薫さんが、「かくも重大な反社会的行為が身近で行われていた数年間、日本社会はいったい何をしていたのだろうか」「日本社会がこの希有な事件を十分に言葉にする努力を放棄したままこの日を迎えた」と新聞に寄稿していました。この言葉を重く受け止めたいと思います。

 

弁護士 中 村 周 而(ほなみ第125号)

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