新潟合同法律事務所(新潟県弁護士会所属)

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2021年8月18日

「田中角栄研究」のインパクト

 

今年4月に亡くなった立花隆さんが文藝春秋に「田中角栄研究」を発表したのは74(昭和49)年10月。当時の現職総理大臣が数多くのユーレイ会社を使ってウラ金作りに奔走してきた実態を詳細に暴いた研究の政治的インパクトは大きく、たちまち国会やマスコミで田中金脈追及の声が高まり、「総理の辞意」表明がなされたのはそれから間もない11月26日でした。

長岡市に住む2人の農民が田中氏のユーレイ会社室町産業を相手に新潟地裁長岡支部に裁判を起こしたのは75(昭和50)年9月。2人を含む関係農民300人から田中氏が政治家の地位を利用して新堤防や架橋工事が近い将来なされることを知りながら農民に秘し、「すぐに堤防はできない」などと告げて信濃川河川敷20万坪余を買い占めたのは公序良俗違反で無効であり、土地引渡義務がないことの確認を求めるという主張で、中村洋二郎先生を中心に全国から多くの弁護士が参加して弁護団が結成され、私も参加しました。

ロッキード事件で田中逮捕が報じられたのは76(昭和51)年7月。田中氏は83(昭和58)年10月に東京地裁で懲役4年、追徴金5億円の実刑判決、東京高裁でも控訴棄却の判決を受け、最高裁で公訴棄却の判決を受けたのは死亡後の93(平成5)年12月でした。

河川敷裁判の一審判決は88(昭和63)年6月に出され、残念ながら原告敗訴でした。しかし控訴審の東京高裁では、河川敷の現地検証がなされ、ユーレイ会社の関係者の多くが証人採用されました。93(平成5)年3月に出された判決は、一審と同様原告敗訴でしたが、室町産業は河川敷の売買を除いて見るべき事業実績はなく、「実質的に田中によって支配された会社」であり、田中の行為は「政治家のモラルの問題として様々な批判を免れない」が、「それだけで直ちに本件全体契約そのものが政治家の地位利用に当たると解することはできない」という判決内容でした。

これに対しマスコミは裁判所の姿勢を厳しく批判。とくに心強かったのは立花さんが新潟日報紙上で、「ここまで粘って闘いぬいた原告たちは立派である。こうした闘いがなければ、河川敷はとっくに三百億円の政治資金に化けていたろう。河川敷の土地利用に『公共目的に限る』の枠をはめさせたことは、原告たちの闘いが半分勝利を収めたと評価してよい」と原告の闘いを評価。週刊文春の「私の読書日記」でもこの判決に触れ、「事実上の有罪判決を下した」と指摘してくれました。ペンの力はほんとうに強いんですね。

弁護士 中村 周而

(事務所誌「ほなみ」第130号より)

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