2012年10月12日
ある大学生の話
ある大学1年生(女性)の話です。
初めての東京で、一人暮らしを初め、約1年が経とうとしていた2月ころ。
アルバイトもいくつか経験し、働くという経験をして、ちょっと大人になった気がしていました。家賃の振込も、生活費のやりくりも、板についてきた頃です。
そんなある日の、午後9時過ぎ。
インターホンが鳴りました。出てみると、「東京都水道局です。」と名乗るお兄さん(推定25歳くらい)。
「今、この地域の各家庭を回って、水質調査をしています。10分程度で終わりますので、ご協力お願いします。」
「わかりました。」
そう言うと、大学生はオートロックを解除し、水道局員のお兄さんに家に上がってもらいました。
水道局員のお兄さんは、家に上がると、「じゃあ水質検査しますんで、コップ貸してください。」と言いました。
「はいどうぞ。」
大学生がコップを渡すと、お兄さんは水道の水を入れ、コップに、試薬らしき薬を数滴入れました。
すると、水が茶色に染まりました。お兄さんは、大学生に言いました。
「この色ですと、塩素などの有害物質が多く含まれてますね。この近所では、皆さん浄水器を設置されています。今ご契約いただくと、月額4000円で、水道の内部に浄水装置を設置できます。浄水器を付ければ、お風呂の水も安全になります。浄水器を設置しないまま水を使い続けると、身体に毒です。一日100円ちょっと、と考えれば、この浄水器は安いと思いますよ。」
大学生は、目の前の茶色い水とその話を聞いて、なんだか怖くなりました。大学生は、「じゃあ、契約します」と言いました。お兄さんが、「この紙に、必要事項を記入してください。」と言って契約書を出したので、大学生は住所、氏名、生年月日…と記入していきました。
すると、大学生が記入した生年月日を見たお兄さんが、血相を変えて言いました。「あなた、10代なの?」
大学生が、「はい。そうです。」と答えると、お兄さんは、「じゃあ、この契約はできないんで。」と言って、記入途中の契約書を取り上げて、帰り支度を始めました。
大学生は慌てました。有害な水を使い続けなければならないことになってしまうからです。お兄さんに、「ええっ!じゃあ、どうやったら契約できるんですか?!」と言いました。
お兄さんは、「20歳になったらしてください。」といいました。
大学生は慌てて、「いま契約したいんですけど!お願いします!」と言いましたが、お兄さんは「いや、だめなんで!」と言って、とにかく慌てて帰ってしまいました。
お兄さんが帰った後で、大学生は水が怖くなり、実家に電話をかけました。
「今、水道局の人が来て、浄水器を設置してくれるって言ったのに、10代だからって契約してもらえなかったんだけど・・・。どうしよう!」
それを聞いた実家のお母さんは、こう言いました。
「あんた、だまされてるよ!」
そう。もうおわかりかと思いますが、よく考えれば、夜9時に、突然「東京都水道局」の人が来るはずがない。そして、水道の水が有害だなんて言うはずがないのです。
大学生は、完全にだまされて、どうしても浄水器が欲しいと思ってしまったのでした。
このように、突然自宅にやってきて、不安感をあおって契約を迫る消費者被害に気をつけてください。被害にあったかな?と思ったら、すぐに、身近な人や警察、弁護士など、だれでもいいので「客観的に見て詐欺かどうか」を判断できる人に相談してください。
ところで、実はこれが私の体験談で、「大学生」がかつての私だ、ということは、秘密です。
弁護士 黒沼 有紗
巻で原発を阻止することができた謎