2021年8月16日
そこのアベさん、マスク着けたらどうですか
少し前のことですが、今年の3月27日の午後4時すぎ、私は、マスク姿でJR新潟駅の新幹線13番ホームに立っていました。自由席5号車の乗車口付近で『とき』号の入線を待っていました。田舎で一人暮らしの母親を世話するため、となりの燕三条駅まで行く予定でした。
二本の線路をはさんだ向こう側のホームに目をやると、2階建て新幹線『MAXとき』が停車していました。私が乗る『とき』の次の出発時刻に備えて静かに佇んでいました。
しばらくボヤッとしていると、向こう側のホームを10人あまりの男性ばかりの集団が右方向へぞろぞろ歩いているのが目に入りました。みな紺色のスーツ姿で体格の良さそうな人ばかりでした。
新型コロナウィルスの影響で新潟から東京方面へ行く人はほとんどなく、自由席でも多くて一車両2~3人の頃でしたから、目立ちました。
「誰か有名人でも乗るのかな」と漠然と思いながら目で追っていると、歩みを停めた男たちの集団の中から、一人のやや小柄で細身の男性がさらに右方向へ歩き出てきました。少し猫背で歩く姿や髪形から、前首相の安倍晋三さんだと気づきました。ナマで見てちょっと興奮しました。
あれ?マスクしてない。彼はマスクをしていません。世間でアベノマスクと呼ばれた小さな布マスクもしていません。JRの構内放送は、「駅構内やホームでのマスク着用にご協力をお願いします」と繰り返し呼びかけています。しかしアベさんは着けていません。グレーのスーツに身を包んだ彼は、なお一人ですたすた歩き続け、ホームに残った人たちを振り返ることもありませんでした。
アベさんの姿を目で追いながら、だんだん腹が立ってきて、「そこのアベさん、マスク着けたらどうですか。」と線路越しに声をかけようとしたところ、彼は『MAXとき』最後尾のグリーン車両へ姿を消していきました。そう言えば、見送りの人たちにもマスク姿がなかったように記憶しています。
翌日の新聞で、この日、安倍前首相は、自民党が新潟市内で開いた会合に呼ばれて講演をしたとのことでした。あの時の新幹線ホームの男性たちは、見送りの自民党関係者や前首相の護衛の方たちだったようです。
燕三条駅へ向かう新幹線に座り、猛スピードで次々と流れ去っていく風景を窓越しにボーと見ながら、「国民の皆さま、ご自分のいのちを守るために、大切な人のいのちを守るために、食事の時以外はマスクを着けていただかなければなりません!」と、カメラ目線で流暢に訴えていたアベさんの姿を思い浮かべていました。
こんな人が総理大臣だったなんて。
弁護士 金子 修
(事務所誌「ほなみ」第130号より
「田中角栄研究」のインパクト