新潟合同法律事務所(新潟県弁護士会所属)

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2021年8月27日

福島原発被害救済 新潟県訴訟・地裁判決のご報告

1 裁判の経過

2013(平成25年)7月23日に、福島原発事故によって、新潟県内に避難した方及び避難した方を世帯の構成員とする方々を原告とし、被告を国、東京電力とした訴訟(原告数・第1陣~第4陣まで計237世帯・801名)は、2021(令和3)年6月2日に判決が言い渡されました。この裁判での主な争点は、第1に「被告国は津波を予見し、原発事故を回避できたかどうか(責任論)」、第2に「これまで被害者が受領した賠償金は、精神的被害(慰謝料)として十分かどうか(損害論)」でした。この争点の整理と立証のため、およそ7年を超える審理を通じ、39名の原告の方々、専門家(宇都宮大学・高橋若菜准教授)の証人尋問などが行われました。多くの原告の方や支援者の方の期待を背負って迎えた判決言い渡し期日当日でしたが、言い渡し後に新潟地方裁判所の正門に「旗」をもって走る私の足は重いものでした。

2 判決内容について

(1)責任論について

結論として裁判所は、「津波が到来することの予見可能性自体は認められるものの、その程度は高いものではなく、そのような予見可能性の程度を前提とした場合、本件において結果回避可能性があったとも認められない」として、国の責任を否定しました。

一般論として予見可能性の「程度」を問題にすること自体はあり得ますが、こと「原発事故」といった広範かつ甚大な被害を生じさせ「万が一にも起こしてはならない」といったことを看過したものであり、極めて不当な判断と言わざるを得ません。

他の裁判所の判断は、現在全国的には、国の責任を認めたものと否定したものがあり、高裁レベルでも判断が分かれています。国の責任を認めた千葉控訴審判決では、「経済産業省は、土木学会が14年2月に策定して公表した「原子力発電所の津波評価技術」の知見によって規制権限行使の判断をしています。具体的には、「長期評価と津波評価技術は、いずれも専門家が議論を重ねて得た見解で、科学的信頼性は同等といえる。津波の到来による原発の全電源喪失という重大な事故を防ぐため、防潮堤の設置やタービン建屋などの水密化を想定すべきだった」「想定すべき対策が講じられていれば、津波の影響は相当程度軽減され、全電源喪失の事態には至らなかったと認めるのが相当」として、長期評価の公表から遅くとも1年後には技術基準適合命令を発することができたと認められ、それから地震発生までの約7年半を費やせば、技術基準に適合させるための措置を講じることは可能だった」として、国を断罪しています。

新潟訴訟の控訴審では、新潟地裁判決の誤りを正すべく、責任論について巻き返しをはかりたいと考えています。

(2)損害論について

ア 被侵害利益

新潟判決では、被害者は「平穏に生活する権利や、自己が決定した居住地において生活を営む権利」を侵害されたものと認めた上で、その権利侵害によって、原告らは、①放射能汚染のない環境下で生命・身体に対する不安を感じることなく生活することが困難となり、②本件事故により拡散した放射能により、自己が被ばくした 可能性があるとの恐怖や健康不安を感じ、③万全な準備ができないまま急に避難を余儀なくされたことにより、一時避難先の避難所等において良好ではない環境での生活を余儀なくされ、④あるいは避難先においても、避難当初は避難元の生活水準を下回る水準での生活を余儀なくされるなどし、また、⑤望まない転職転勤、転校等により苦労をするなどしたことが推認され、その他にも、 長年住み慣れた土地から離れざるを得なかったことによる喪失感等、多様な精神的苦痛を被ったことが推認される」などとして、原告側の主張に沿う理解を示しました。特に、世帯分離が生じた世帯の原告さんらについての「“避難をしたこと”に加え、“避難をせずに事故時住所にとどまったこと”による精神的苦痛」を認めている点は新潟判決の特徴といえます。

イ 避難の合理性・相当性

次に、避難することについて合理的かどうかについては、新潟訴訟の原告らについては、自主的避難等対象区域から避難された方々についても、避難の合理性及び相当性が認められるとしている点は評価できます。

もっとも、避難を継続することの合理性が認められる“期間”については、中間指針・東電自主賠償基準を超えるものではないとされました。いったん避難して避難先での生活が継続する中で、事後的に「その時点では戻れた」「戻るべきだった」というに等しい判決であり、到底容認することはできません。

ウ 精神的損害及びその金銭的評価

以上を踏まえたうえで「慰謝料」の額について、「出された放射性物質による人体への悪影響 に関する不安、突然の避難等によって良好な環境とはいい難い避難生活を強いられたこと、避難によって、職業、学校生活等に関しても大きな変化を余儀なくされたこと等により、多様な精神的苦痛を被った」としながらも、「原告らの居住地域等に応じて、一定の類型的な共通性がある」とし、区域外避難者について「一定の類型的な共通性」を認めたうえで、中間指針を超える慰謝料を認定している点は一定の評価はできますが、認定額については大人25万円、子ども50万円としており、その額が「多様な精神的苦痛」を慰藉するものとは到底評価できません。また、区域内避難者については、一部を除いて中間指針を超えない認定をしている点でも不当なものです。

大きな問題は、今回の裁判を通じて個別の自らの体験について法廷で涙ながらに訴えた原告の方々について「類型的」な損害を超えて個別の損害を、さらにそのような個別の損害の実態について詳細な分析と調査を行った専門家証人の証言についての判断がなされていない点になります。この点については、あらためて控訴審で強く訴えるとともに、慰藉料額についても正当な金額の認定を求めていかなければなりません。

エ 弁済の抗弁について

損害論の中で、「弁済の抗弁」という争点があります。全国的にも昨年から被告東電から出されてきた主張です。具体的には「これまで支払ってきた賠償金全額、財産的損害に対するものも含めて既払金として扱うべき」というものです。仮にこの主張が認められた場合、原告としては、「慰藉料」を求めてきたところですが、これに加えて例えば交通費や不動産に対する賠償について「全部」について主張立証を行う必要があり、ただでさえ長期化している裁判がさらに相当期間超過することは避けられません。また、これまで「慰藉料」として受領していた一部についての合意を破棄するに等しい主張であり、これまでの賠償対応はなんだったのかという疑問は避けられず、極めて不当な主張であると言わざるを得ないものです。

この点、新潟地裁判決では、東電が、各原告に対し、精神的損害に対する賠償との名目で支払った既払金については、本件で原告らが請求している損害賠償請求権に対する弁済として控除するのが相当である」と判断しました。実質的に東京電力の主張を排斥したものであり、「新潟訴訟で勝ち取った部分」と評価できるかと思います。

3 控訴について

本年6月14日、801名のうち789名の方々が地裁判決を不服として控訴しました。次の舞台は東京高等裁判所になります。同じ東京高裁では、2月の群馬控訴審判決では国の責任が否定され(賠償額は増額)、3月の千葉控訴審判決では国の責任が認められており、判断が分かれており、予断は許しません。引き続き原告の方々、支援してくださる方々、心を寄せてくださる皆様とともに取り組んでまいりたいと思います。ご支援の程よろしくお願いいたします。

弁護士 二 宮 淳 悟

(事務所誌「ほなみ」第130号掲載)

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