2018年10月12日
判断の行方
2018年FIFAワールドカップはフランスの優勝で幕を閉じました。
日本は,残念ながら決勝トーナメント1回戦でベルギーに逆転負け。事前には圧倒的不利と言われていた試合でしたが,強豪のベルギーから2点を先行。大アップセットが現実になるかと思われましたが,最後は地力に勝るベルギーの前に力尽きました。W杯では,一瞬たりとも気を抜いてはいけないということを再認識させられた試合でした。
さて,この試合については,セネガルの審判団がレフリーを担当しました。セネガルといえば,グループリーグで日本と同組であり,両国の勝点,得失点差,総得点が並んで,イエローカードの枚数等で日本が2位,セネガルが3位となった因縁の相手です。しかも,日本はグループリーグの最終戦ポーランド相手の試合の終盤,セネガルが負けていることを知ってその敗退を期待し,消極的な試合運びをしたことが物議を呼んだという経緯もありました。
そのセネガル人の審判が日本の試合を担当するということになり,一斉に懸念の声が上がりました。日本にとって報復の笛が吹かれるのではないかと。
しかし,結論から言えば,この心配はまったくの杞憂に終わりました。主審のジャッジは的確かつ公平そのもの。不可解な判定は一度もなかったと言ってよいほど完璧なレフリングでした。
セネガルの審判団が担当することが事前に大騒ぎとなったことに比べ,この試合後にマラン・ディエディウ主審をはじめとするセネガル人審判団に言及する記事はあまり多くありませんが,彼らは賞賛に値すると言ってよいでしょう。もし,故意でなくても(日本に不利な)誤審があれば大変な非難にさらされたであろうことは想像に難くありません。難しい状況の中,誰からも文句のつけられようのない形で任務を遂行したことは褒め称えられてしかるべきと思います。
ところで,世の中には,立場や職業上,判断に公正さが求められる人々がいます。裁判官などはその最たる例でしょうが,行政も中立が求められるため,行政に携わる公務員もそうかもしれません。民間企業であっても,その重要なポストに就く者により依怙贔屓や不正がまかり通れば,企業そのものが信用を失うでしょう。
人間であれば誰でも私情や私心があります。このセネガル審判団の振る舞いは,こうしたものを超えて,公正な判断をすることの重要さ大切さを表す良い教訓となったのではないでしょうか。
弁護士 小淵 真史
新潟日報に取材記事が掲載されました