2022年9月9日
原発被害賠償訴訟のうごき
福島原発事故によって、新潟県内に避難した方及び避難した方を世帯の構成員とする方々を原告とし、国、東京電力を被告とする集団訴訟は、2021(令和3)年6月2日に判決の後、東京高等裁判所に控訴しています。控訴審では、第1回口頭弁論前に進行協議期日を経て、本年8月31日に第1回口頭弁論期日が開かれます。新潟地裁判決が国の責任を否定した点(責任論)や、賠償額が低額に抑えられたことについて巻き返しを図っていきます。
この間、6月17日に最高裁判所第二小法廷(菅野博之裁判長)は、福島第一原発事故の被害者が提起した生業訴訟、群馬訴訟、千葉訴訟、愛媛訴訟の4訴訟において、国が規制権限を行使しなかったことについて、国の責任を認めないとの判決を言い渡しました。裁判官全員一致の判決ではなく、3対1と意見が分かれた判決でした。多数意見は、全国の同種の訴訟での争点から目を背けた“肩透かし判決”であり、司法に期待される役割を放棄したものというほかありません。
もっとも、三浦反対意見は、原子力安全規制法令の趣旨・目的を明らかにし、「長期評価」の信頼性を認め、東側にも防潮堤が設置されるべきこと、防潮堤の設置に合わせて建屋の水密化の対策が求められ、これにより事故を避けられたとしています。また、三浦反対意見は、「生存を基礎とする人格権は、憲法が保障する最も重要な価値であり、これに対し重大な被害を広く及ぼし得る事業活動を行う者が、極めて高度の安全性を確保する義務を負うとともに、国が、その義務の適切な履行を確保するため必要な規制を行うことは当然である。原子炉施設等が津波により損傷を受けるおそれがある場合において、電気供給事業に係る経済的利益や電気を受給する者の一般的な利益等の事情を理由として、必要な措置を講じないことが正当化されるものではない」とし、生命・身体の保護と企業の経済活動の利益を天秤にかけるような考え方を明確に否定しています。この三浦反対意見は、下級審で判断されたすべての論点について、原告からの提起を正面から受けとめたもので、本来あるべき司法の姿勢を示すものといえます。
なお、7月13日に、東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は、東電旧経営陣5人に対し、津波対策を怠り会社に損害を与えたとして、総額22兆円を東電へ賠償するように求めていた株主代表訴訟で、うち4人に計13兆3210億円の支払いを命じる判決を言い渡しました。この判断は6月の最高裁判決における三浦判事の少数意見と趣旨を同じくするものです。
6月の最高裁判決で国の法的責任が否定されたとしても、全国の弁護団では、最高裁判決の不当性を、そして今回の最高裁判決の三浦反対意見が本来あるべき司法判断であることを訴え続けるとともに、原告の方々、支援してくださる方々、心を寄せてくださる皆様とともに取り組んでまいります。ご支援の程よろしくお願いいたします。
事務所誌ほなみ第132号掲載(弁護士 二宮淳悟)
著者:二宮 淳悟
2010年12月 当事務所入所 ・2012年~新潟県弁護士会 東日本大震災復興支援対策本部 本部長代行 ・2015年~新潟県弁護士会 憲法改正問題特別委員会 副委員長 ・2019年~新潟県弁護士会 糸井川大規模火災対応本部 事務局長 ・2020年~新潟県弁護士会 学校へ行こう委員会 副委員長 ・2023年~新潟県弁護士会 刑事弁護委員会 副委員長 ・2012年~日本弁護士連合会 災害復興支援委員会 運営委員 ・2018年~関東弁護士会連合会 災害対策委員会 副委員長
「どちらにしようかな…」