2011年9月7日
子どもたちに法教育を
事務所誌「ほなみ」第108号掲載
「法教育」とは耳慣れない言葉かも知れませんが、英語のLaw-Related Educationの訳語です。
法教育は、法とは何か、法がどのように作られるのか、法がどのように用いられるのかなどの知識とそれらの根底にある原理や価値を教えるとともに、法を作り、法を用いるための具体的な技能を身につけてもらう教育です。
日本国憲法は、個人の尊厳を究極の価値としていますが、そのために、法は、各人が自由な生き方をすることを可及的に保障するとともに、各人が共存していくための利害調整機能を果たす等、重要な役割を果たしています。
憲法がめざす社会の実現のためには、このような法の仕組みを社会の構成員ひとりひとりに理解してもらい、法を主体的に活用できる能力を身につけてもらうことは極めて重要です。そのために、法を単なる知識として学習するにとどまらず、法知識をもとに、それを応用し適用する技能と、それを踏まえて行動する意欲・態度が、一体となって育成されなければなりません。
一言で言うとするなら、法教育の目的は、個を尊重する自由で公正な民主主義社会を実現することにあります。
法教育の学習機会は、子どもだけにとどまらず市民全体に対して提供されなければなりませんが、とりわけ、小学生段階から高等学校段階における法教育が重要です。すなわち、法、人権、権力、自由、平等、公平、正義といった概念を子どもの成長段階と発達過程に応じた身近で具体的な事例や設例を通じ学ぶことが重要です。
法教育の授業の特徴は、講師が一方的に講義を行うのではなく、生徒が参加し双方向的、多方向的に議論を行うことです。
そして、法教育では唯一絶対の正解というものは存在しません。議論を通じて、自分の主張を相手に伝えること、相手の意見を誤解ないように理解するということが求められますが、これはまさにコミュニケーション能力の訓練にうってつけです。
イメージとしては、マイケル・サンデル教授の「白熱教室」に近いかもしれません。
題材はいくらでもあります。例えば、少年事件について次のふたつの考え方があるとします。
A 事件を起こした少年を甘やかすと、悪い少年がのさばり、犯罪が増える。犯罪を犯したら、少年であっても大人と同じように断固として厳しい処分にすべきだ。
B 少年が悪いことをしたとしても、まだ成長の過程にあるのだから、立ち直る可能性がある。少年に対してはやみくもに厳罰にするのではなく、教育的な措置を行うべきだ。
あなたなら、AとBのどちらの考えを支持しますか?その理由はどういうことですか?
弁護士 小 淵 真 史
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