新潟合同法律事務所(新潟県弁護士会所属)

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2019年5月7日

専門学校の海外研修で、メンタルヘルス不調に

企業が「実務研修」として受け入れた外国人「研修生」が劣悪な労働環境で働かされている実態が報道されています。雇われる前に聞かされていた労働条件と違う長時間労働と低賃金で働かされ、行方不明となっている外国人留学生が多数いることが国の調査で判明しています。最近ではベトナムからの研修生を多く受け入れています。

ところで、海外研修と称して、専門学校に入学した若者(学生)が外国での実務研修を行わされ、メンタルヘルス不調となった事件が起きています。

Aさんは、新潟市内のホテルブライダル専門学校の国際ホテル科(3年制)に入学しました。卒業後はホテルマンとして海外のホテルでの勤務ができることを目指しての入学でした。

1年目の夏に約2か月間、ホテルのプール監視員などの仕事を国内インターンシップとして行い、2か月の日当をホテルから支払いを受けました。

2年目は海外のホテルで6か月間の実務実習を行うと学校から言われ、学校からの勧めでベトナムのハノイ市のホテルに行くことになりました。ホテルからの「招待状」には6か月間、月300米ドル、1日8時間、週6日の勤務時間で、日本人客へのサービス代行のインターン(Japanese Guest service Agent Interns)として招待するとなっていました。

Aさんは当時19歳でしたが、ハノイの現地に到着した日に英文で書かれた雇用契約書(EMPOLYMENT AGREEMENT)を渡され、署名をするよう求められました。ベトナムでは18歳が成人なので、日本国内で雇用契約書を作成させなかったものと思われます。雇用契約書は招待状と異なり、1日の勤務時間の定めはなく、ホテル側の必要に応じて勤務時間を延長されることとされ、超過労働に対する報酬の支払いを行わないことになっていました。署名しないとホテルでの研修はできず、英文の契約書をきちんと検討することもできないまま、署名をせざるを得ませんでした。

1日の勤務時間の定めがなかったことで、Aさんが日常の勤務が終わって自分の部屋に戻っても、夜遅くまで日本人旅行客からの様々な要求に応ずるためにホテル側スタッフとの取り次ぎをしなければならなくなり、Aさんは不規則な長時間労働を強いられました。

海外の実務研修といっても、現地のホテルに、学校からホテル研修を委託された日本人スタッフがいるわけでもなく、ホテル側は雇用契約に基づいて、Aさんを日本人旅行客を相手方の取り次ぎの業務を行うために雇ったという態度で、Aさんを処遇していました。

後にわかったことですが、学校側がハノイ市のホテルを研修先としたのは今回が初めてであるにもかかわらず、現地の調査をまったく行なわず、同じ系列の専門学校の卒業生が同ホテルに営業として勤務しているという理由で選んだというのです。ホテルの唯一の日本人スタッフも学校側から研修を委託したわけではなく、ボランティアとしてAさんの面倒を見てもらっていたということでした。

慣れない外国のホテルので不規則な長時間労働によるストレスで、Aさんはメンタルヘルス不調を訴え、抑うつ状態となり、自殺をしようとするまでに追い詰められました。

学校の担任がハノイ市に迎えに行き、帰国することができましたが、帰国後、新潟市内の病院で通院治療を受けました。Aさんは心の健康を取り戻すことなく、うつ状態でしばらく閉じこもりの生活となりました。このようなつらい経験をしたため、ホテルなどの接客業の業務につくこともできず、Aさんのホテルマンの夢は絶たれてしまいました。

Aさんは、海外研修という名目で、海外のホテルにおいて派遣労働をさせられ、病気となったことの学校の生徒に対する安全保持義務違反に基づく損害賠償を求めています。

学校側は海外実習でメンタルヘルス不調の病気となったことの責任を認めないという態度に終始しています。

 

職業安定法の労働者供給事業との関係はどうなるホテル研修

職業安定法4条7項は供給契約に基づいて労働者を「他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」をいうと定義し、労働者派遣法2条に規定する労働者派遣以外の労働者の供給をいうと定めています。

労働者供給については、職業安定法44条で労働者供給事業を禁止しています。同法44条の違反については同法64条9号で罰則があり、同67条で法人の代表等も処罰される両罰規定があります。

この専門学校はAさん以外の学生も別のホテルに海外研修として派遣をしており、Aさんと同じような雇用契約書に基づいて日本人旅行客に対する接客を業務として労働させられ、報酬が支払われています。

仮に、職業あっせんに該当するとしても、授業料を学校に支払っているにもかかわらず、Aさんにホテルでの実務研修と称する仕事を紹介して外国へ行かせ、現地に行ってから国内での説明とは違った内容の労働契約をホテルとの間で締結させて、研修として労働をさせています。

学校の管理下できちんと授業として行われているならば格別、Aさんのように単にホテルを紹介し、後はホテルの指揮監督下で働いているという実態では問題があります。学生は学校に対し、ホテルで「研修」という実務労働をするために授業料を払っていますので、ホテルの業務の紹介を受けることと対価関係があると見ることができます。そうなると有料の職業紹介に該当する可能性があります。

有料の職業紹介は許可が必要となっていますが、いずれにしても問題のある専門学校の海外実習(海外インターンシップ)といえます。

専門学校の実習、研修だからといって、派遣先の国や企業の労働実態を知らないと、長時間労働や過大な労働を要求され、心と身体を害するような結果を招くことがあります。今、国内で問題となっている外国人留学生と同じ被害に遇う可能性があります。

Aさんについても、専門学校側はハノイ市のホテルでの実務研修で健康を害したことについての生徒に対する安全保持義務違反を認めず、不誠実な対応をしています。

Aさんに対するご支援をよろしくお願い申し上げます。

 

弁護士 土屋俊幸

著者:

パソコンのハードとOSに強く、当事務所のパソコン機器のメンテナンス係りです。自分で高性能のパソコンを自作しています。オーディオが趣味で、最近では、デジタル信号をアナログ信号に変換する機器(DAC)にiPadをつなぎ、どのUSBケーブルだと良い音ができるのかを試行錯誤をしています。ハイレゾ音源とYouTubeのヒアノ演奏や交響楽団の演奏を真空管アンプで、30年前に買ったスピーカーで、音の歪みのもたらす音に聴き入る時間をつくりたいと思っています。論文検索や技術情報の収集など情報検索を駆使しての情報集めを得意としています。オーディオの世界と仕事では燻銀の経験と粘りで頑張っています。

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