2018年7月16日
必要性と許容性
1 司法試験では,法律の基本的知識があることを前提に,主に法律解釈に関する問題が出題されます。
したがって,司法試験を受験しようとする場合,法律の基本的知識を身に着け,法律の解釈に関する判例や学説を勉強をすることになります。
ただ,判例や学説をすべて暗記したとしても,それだけでは解けない問題が出題されることがあります。つまり,今までに前例がないような未知の問題や,現場での思考能力を試すような問題が出題されることがあるのです。
こうした場合,知らない問題だからお手上げということでは,試験には通りません。ではどうやって解答をするのかというと,必要性と許容性という2つの観点から考えるとよいと言われています。
2 例えば,「A土地に猫を連れて入ってはいけない」という条文があったとして,A土地にBさんが犬を連れて入った場合,これに違反となるのかという事例で考えてみましょう。
必要性というのは,上記の事例でBさんの権利を保護すべき必要性があるのか,その程度は高いのか低いのかということです。そもそもBさんの権利を保護する必要性がないとか,または,代替手段等があり当該法律によっては保護の必要性が低いといったような場合には,Bさんを勝たせるということはしなくてよいということになります。
例えば,上記の事例で,Bさんが,ただの冷やかしや,少し近道だからというだけでA土地に犬を連れて入った場合,Bさんの権利を保護する必要性はないか低いということになるでしょう。他方で,Bさんが連れていたのが盲導犬や介助犬であったという場合は,Bさんの権利を保護する必要があるように思われます。
次に,許容性というのは,法律の条文の文言に正面から反しないこと,法律の条文の趣旨に適っている(少なくとも趣旨に反しない)ことを意味します。上記の例でいえば,禁止されているのはあくまでも「猫」であって「犬」ではないから「犬」であれば明文に反しないということになります。また,「猫を連れて入ってはいけない」という条文の趣旨が,例えば,「以前にA土地が猫に荒らされたことがあり猫の連れ込みを禁止した」ということであれば,犬によって被害を受けたわけではないのですから犬を連れて入っても条文の趣旨に反しないということになり,許容性があるということになります。
3 少し事例を変えて,「A土地に動物を連れて入ってはいけない」という条文だったらどうなるでしょうか。
この場合,例えば,Bさんが連れていたのが盲導犬や介助犬であってBさんの権利を保護する必要性がいくらあったとしても,「犬」は普通に考えれば「動物」に含まれますので,犬を連れて入ることは明文に反するため,許容性がないということになります。
もっとも,「動物」の意味を限定して,例えば,ここでいう「動物」とは,すべての動物ではなく,人に危害を加える動物を指し,人に危害を加えない動物は含まれないという「限定解釈」という解釈方法があります。この「限定解釈」は一見するとやや奇異な結論に見えることもありますので,限定解釈をしなければならない説得的な必要性,許容性が求められるでしょう。
4 少し長くなりましたが,こうした必要性,許容性という2つの観点から物事を考えることは,法律解釈の場面だけではなく,様々な場面の対処方法として有効なように思われます。
例えば,CさんはDさんを好きになり,Dさんと交際したいと思ったとします。Cさんにとってみれば,好きである以上交際の必要性はあるかもしれません。しかし,もしCさんまたはDさんの少なくとも一方が既婚者である場合には,許容性がないということになり,その交際は諦めるか,双方が独身になってから交際すべきということになるでしょう。
このように,必要性,許容性という2つの観点から物事を考えることは問題解決のヒントになり得ますので,興味があればお試しください。
弁護士 小淵真史
著者:小淵 真史
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