2008年4月8日
模擬裁判 ~正解はない,いろんな角度から考えてみよう~
薫風緑樹をわたる季節となりましたが,如何お過ごしでしょうか。
さて,去る3月27日,新潟県弁護士会と関東弁護士会連合会との共催で,中学生を対象に模擬裁判が行われました(テレビ,新聞等で報道されたので,それをご覧になった方もいるかと思います。)。
被告人が,電気製品を盗もうとしたとして起訴された事案で,窃盗未遂罪の成否について,中学生が,裁判官,検察官,弁護人のそれぞれの役に扮し,自分たちの立場から主張,立証,判断するという内容でした。
基本となる台本が一応あるものの,生徒の方で台本にない尋問事項を自由に付加するということもできるという方式で,模擬裁判という題材を通じ,中学生に,正解が決まっていない問題について自分たちの頭で考えてもらい,また,グループで作戦などを考えることで,物事にはいろいろな見方ができるというようなことに気づいてもらうということを目的としていました。
したがって,結論に至る思考過程というものを重視した内容になっており,この模擬裁判には正解というものは設定されていません。
ところで,この模擬裁判は,法教育の実践授業の一環として行われたものです。法教育とは,法律家でない人たちが法に関する知識と技能,司法手続,司法制度,そしてこれらに基づく根本原理と価値を身につける教育のことをいいます。
簡単に言えば,単なる法律知識ではなく,法的な考え方を身につけるための教育ということになるかと思います。
法的な考え方といっても,その基本となる部分は決して難しくはありません。法律は,利害関係調整のためのツールという側面があります。どのような調整方法が,当事者及び社会一般に対して説得力があるかということを考えると,説得力がある結論を導くための過程として,論理的か,社会一般の常識に合致しているかといったことが問題となり,これらを検討する上で,自分の考えを他者へ正確に伝えること,また,他方では他者の意見を誤解のないように聞くということ,つまりは他者とのコミュニケーションが重要となります。
つまり,法教育は法を題材としたコミュニケーション能力の訓練といっても良いでしょう。
今回の模擬裁判では,本番の数日前に,生徒に対して事前の説明とリハーサルを行いました。この事前説明会のときには,生徒たちはどちらかと言えばおとなしく,本番でもおとなしいまま淡々と終わってしまうかもしれないと思っていたのですが,いざ当日になると,生徒たちが積極的に自分たちの意見を出し合い,台本にない尋問をどんどん行ったり,相手の尋問に対して異議を何回も述べるなど,検察官役と弁護人役との間で白熱した攻防が行われ,模擬裁判を見ていた大人たちが圧倒されるくらいの高度な内容となりました。
参加した子どもたちにとっては,春休みの思い出とともに,将来に何らかの形で役に立つ経験となってくれたと思います。
弁護士 小 淵 真 史
「入学式」にて
新潟県弁護士会副会長退任の挨拶<弁護士小川和男>