2012年7月2日
水俣病の「申請受付」の打ち切りは許されない
(事務所誌「ほなみ111号」掲載)
2月3日、水俣病特別措置法に基づく救済申請の受付を今年の7月31日に打ち切るという細野環境大臣の発表に対して、各界から抗議と撤回を求める声があがっています。申請受付が始まった2010年5月から今年の2月末までの間の申請者数は、全国で5万1511人にのぼります。新潟県も1242人で、その多くは自分が水俣病患者であることに気づくのが遅れたり、差別や偏見のために救済を求めることができなかった人たちで、今でも毎月30人から40人が申請をしています。2月の1ヶ月間だけでも全国で1351人が申請しており、このような時期に、被害実態を解明するための住民健康調査もなされないまま申請受付が締め切られれば、水俣病の解決を先送りにするだけでなく、多くの潜在被害者が切り捨てられることになり、到底許されません。
新潟では、特措法の救済申請をしても十分な説明がなされないまま救済対象者と判定されないケースが生じていることも重大な問題になっています。救済対象者の判定やその手続きは、2010年4月16日の閣議決定に基づいて、県が設置する判定検討会でおこなわれますが、間違って救済対象者に判定されなかった場合の救済手続きの定めはありません。判定検討会で、どのような議論がなされたのか、なぜ救済対象者にならなかったのか、申請者に納得のいく説明をすべきです。
もっとも、水俣病とはそもそもどのような病気なのか、公式確認から半世紀以上が経過しているのに十分な調査研究がなされていないことも事実です。そのため特措法37条は、政府に「メチル水銀が人の健康に与える影響」や症状などの「調査研究を積極的かつ速やかに」おこなうことを義務づけています。また閣議決定も「将来に水俣病被害者が存在するか否かの可能性とそれに関する対応については、今後の調査研究による新しい知見によるべきもの」としており、救済対象者に判定されなかった健康不安者に対するフォローアップ事業が予定されています。
このように特措法は、水俣病の調査研究を政府に義務づけ、調査研究が進展した段階で、それまで水俣病被害者と判定されなかった人も、水俣病被害者と判断される可能性があることを想定しているのです。法律で政府に対して水俣病の調査研究を義務づけ、その一方で、その調査研究も始まったばかりの段階で、拙速に救済申請の受付を打ち切り、救済の扉を閉ざしてしまうことは、「救済を受けるべき人があたう限りすべて救済されること」を謳った特措法の救済原則にも違反し、なおさら許されないというべきでしょう。
弁護士 中村 周而
著者:中村 周而
さまざまな問題を依頼者の皆様と一緒に考え、解決をめざします。 最近は、社会の高齢化が進む中で、高齢者をめぐる貧困、医療、介護、家族との関係などさまざまな問題が深刻さを増しています。私もそうですが、団塊の世代を含めた高齢者が、もっと声を大にして問題の深刻さを訴える必要がありそうです。
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