2017年1月10日
生前の退位
“天皇の生前退位”がマスコミをにぎわせています。憲法にも皇室典範にも生前退位についてはっきりした条文はありません。また珍しい問題なので、弁護士の仕事上はおろか司法試験の勉強していた若い頃にも目にしたことがありません。
生前に退くことが出来ないとすると、「死ぬまで天皇としての仕事をしなければならない」ということになります。これは、おかしい。会社の社長も職人も学者もちろん弁護士も、「もう体力が続かない」「後進に道をゆずる」と考えた時、仕事をやめることができます。しかし天皇にはそれが出来ない。社会の常識として、まずおかしいです。
これは、“生身の人間を国の象徴にしたこと”が一番の問題です。おしっこもする、あくびもする、おならもする、好き嫌いもある生身の人間を日本という国のイメージにしたからだと思います。
「昭和を象徴するスターは〇〇〇さん」というフレーズがあります。私の亡くなった父が好きだった吉永小百合さんや高倉健さんは、抽象的な「昭和」という時代を具体的なイメージとして現してくれるスターです。でもこの二人も、実際には私たちの同じ生身の人間として生活していました(吉永小百合さんは「生活しています」です。)。
自分が思い描く理想の日本という国を象徴しているはずの人から、急に、「実は私、そろそろ辞めたいんです」と言われ、それまでの天上人のイメージから同じ町内で暮らす素敵なおじいさんになってしまう、サユリさんやケンさんと同じようにこれを許せるか、ということになるでしょう。
ここまで来ると、天皇やその家族(皇族)には、私たちと同じように基本的人権が保障されているのかという問題に辿りつきます。
「基本的な人権の尊重を謳う日本国憲法下で、国民統合の象徴とされる天皇に職業選択の自由や移動の自由、婚姻の自由といった基本的な人権が認められていない」と憲法学者の木村草太さんは言います。いつも穏やかな笑みを浮かべていなければならない、家庭問題がどうだ、子や孫の進学する学校はどうだ、とプライバシーもない。そんな人に仕事を辞める自由も認めないのか、と思います。
一人の生身の人間、一つの家庭として天皇や皇族を見るのか、切り取った一枚の写真のようにいつまでも変わらない理想的な日本のイメージ(象徴)として見るのか。憲法は、生身の人間を国の象徴としたことの矛盾の中で揺れ動いています。
ちなみに天皇も私も年男です。
弁護士 金子 修
著者:金子 修
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