2011年11月30日
遺言書の功罪
事務所誌「ほなみ第109号」掲載
遺言書さえ書いておいてもらえれば…と思うケースが少なくありません。
会社の跡取りや事業の後継者に株式や事業に必要な財産を確実に取得させたいような場合、相続人の中に問題のある人がいて、その人に遺産を与えたくない場合、子供たちの兄弟仲が明らかに険悪で、遺産相続をめぐって争いになることが予想される場合、婚外子や先妻との間の子がいるなど相続関係が複雑で話し合いを行うことが簡単ではなく、感情をめぐる争いが起こりやすい場合などがその例です。このような場合、遺言書は、ご本人の意向の沿った遺産の分け方を実現することができるとともに、残された遺族間での無用なトラブルを防ぐことができ、功(コウ)を発揮します。
他方で、ご本人の判断能力や行動能力が低下してから、特定の子の意向により遺言書が作られる場合には、遺言書がかえって罪(ザイ)をもたらすことも少なくありません。判断能力が低下し、自分の身の回りのことができなくなると、ついつい、今親切にしてくれる子を頼るようになってしまいます。過去を振り返り、冷静に考えれば、その子だけに遺産をあげることが適切ではないことが明らかなのに、ついつい、目の前の子の意向に従ってしまうのです。介護をしてくれた子に少し多めに遺産をあげることは誰でも納得するでしょう。しかし、そのために全部の財産をその子にあげたり、極端な差を付けることは他の子供たちが納得しないでしょう。
良い遺言書とは、残された遺族の誰が読んでも納得するような遺言です。悪い遺言とは、残された遺族が読んで、多くの人が首をかしげてしまうような遺言です。
遺言書を残すことは、多くのケースにおいて、相続人間の火種となる遺産争いを防止する効果を持ちます。遺言書は、もっと積極的に有効に活用されて良いと思います。
遺言書の作成は、人生の後始末として、とても重要な作業です。わずか一行の表現によって、「功」の遺言が「罪」の遺言に変容してしまうこともあります。一時的な情に流されず、冷静に、弁護士等の専門家の指導を受けて作成されることをお勧めします。
弁護士 近 藤 明 彦
著者:近藤 明彦
話しやすい雰囲気で相談・打合せを行い、丁寧な事件処理をすること。依頼者の皆様の満足と納得を最優先にし、安心感を得ていただけることを目標として頑張っています。以前依頼者であった方から、別の事件の相談を再び受けること(リピート)、別の相談者を紹介していただくこと(孫事件とでも言いましょうか)が多く、そのことが私にとって大きな励みになっています。お客様から満足していただけたかどうかのバロメーターであると考えるからです。
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