新潟合同法律事務所(新潟県弁護士会所属)

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2011年6月13日

ママはパパの暴力から逃げられるけど子どもは逃げられない ?

(事務所誌「ほなみ」第108号掲載)

 Aさんは、現在、5歳の娘と2人暮らし。カナダ人の夫とは、夫の暴力が原因で昨年から別居していて、現在離婚調停中だ。夫が娘の親権をあきらめないから、調停が長引いているのだ。ある日、スーパーに買い物に行ったAさんが目を離したすきに、娘が行方不明に。後に、夫が娘と一緒にカナダ(*)に帰国し、もう日本には帰らないと言っていることが判明した。
 このような場合、日本が「ハーグ条約」を締結していれば、Aさんはカナダの中央当局を通じて、カナダの裁判所に子の返還を求める申立をすることができる。
 ハーグ条約の目的は、子が国境を越えて不法に連れ去られた場合に生じる有害な影響から子を保護することにある。すなわち、国境を越えて行われる子の連れ去りについては、国際的なルールと国家間の協力が必要であるため、この条約が規定された。しかし、今現在、Aさんはカナダに子の返還を求める申し立てをすることはできない。なぜなら、日本はハーグ条約を締結していないからだ。
 では、日本がハーグ条約を締結すれば、子の連れ去りの問題は万事解決するのか。別の例で考えてみる。
 Bさんは、オーストラリア留学中に知り合った夫と国際結婚して2人の息子を出産し、オーストラリアに住んでいる。息子は現在4歳と2歳で、日本語は話せない。Bさんは、日常的に夫が暴力をふるうことに耐えられなくなり、夫が出張に行っている隙に、息子2人を連れて日本に帰国した。つまり、Bさんはハーグ条約上、子どもを連れ去ったことになる。夫は、ハーグ条約に基づき、日本の裁判所に息子2人の返還を申し立てた。
 ハーグ条約は、子どもを「元の居住国に返す」ことを主たる目的としている。Bさんの場合、日本がハーグ条約を締結していたら、息子たちを「元の居住国」であるオーストラリアに返すのが原則となってしまう。ハーグ条約ではDVを理由として子どもを連れ去った場合も、原則として不法な連れ去りにあたるとして扱われているからである。
 そこで、日本が条約を締結するにあたり重要となるのは、ハーグ条約で十分にカバーできていないDVのような個別のケースを想定した国内法を整備することである。また、法制度のみならず、法の運用者である裁判官や弁護士が、子どもの返還申立事件に関する知識やDV事件についての知識・経験を拡充することも重要である。
 以上のような課題はあるものの、平成22年9月末日現在、ハーグ条約の締約国は82カ国に達している。日本は、子どもの権利条約に定める「子どもの最善の利益」に適うよう、条約締結に向けた措置を講じる努力をしなければならない。
(*:カナダもオーストラリアもハーグ条約の締約国。)

弁護士   黒  沼  有  紗

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