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2020年1月28日

沈黙の碑

昨年8月、長崎にいく機会があったので、バスを利用して外海地区の東出津町にある遠藤周作文学館を見学した後、さらに北に足を延ばして沈黙の碑を訪ねました。ご承知のように「沈黙」は遠藤周作の代表作のひとつ。長崎市外海歴史民俗資料館のすぐ近くにあるこの碑からは東シナ海が一望できます。碑のとなりに置かれた岩には、「人間がこんなにも哀れなのに 主よ海はあまりにも碧いのです」と刻まれていました。

歴史小説「沈黙」の舞台は、島原の乱を経て切支丹への迫害がさらに厳しさを増した江戸時代初期の長崎。布教のためマカオを経てひそかに日本に上陸したポルトガル人神父のロドリゴは、波うちぎわに立つ十字架にかけられた2人の日本人の姿を見て、神に奇跡を祈りますが、2人が殉教しても「沈黙」したままの神に苦悩します。

やがて、自らも棄教を強いられたロドリゴが、奉行所の中庭で踏絵の木のなかの神の顔を踏もうとしたとき、踏絵のなかの哀しそうな眼差しの神は、「踏むがいい。お前の足の痛さをこの私が一番よく知っている」と語りかけます。

そのロドリゴを裏切り、許しを求めて訪ねてきたキチジローの顔を通して、神は再びロドリゴに語りかけるシーンは圧巻です。「私は沈黙していたのではない。お前たちと共に苦しんでいるのだ。弱いものが強いものよりも苦しまなかったと、誰が言えるのか?」

同じ長崎を舞台にした遠藤の「女の一生」の「二部・サチ子の場合」では、サチ子と同じキリスト教信者の家庭に育った修平が、昭和18年の学徒動員で軍隊に入らされると知った時の混乱と苦悩とその顛末が生々しく描かれています。

「軍隊に入ればいつ戦場に送られるか、わからない。そこではいつ相手にむけて銃をうち、銃剣で刺殺するときがくるか、わからない・・・日本の教会は一部の人を除いて、まったくそれについて黙っている」・・・

その長崎に、13億人のカトリック信者を率いるローマ教皇フランシスコが38年ぶりで訪れたのは、昨年11月24日。雨降る長崎の爆心地公園で、「今日の世界では、何百万という子どもや家族が、人間以下の生活を強いられている。しかし、武器の製造、改良、維持、商いに財が費やされ、築かれ、日ごと武器は、一層破壊的になっている。これは途方もない継続的なテロ行為だ」と述べ、平和と安定を訴え、核兵器禁止条約と核兵器廃絶を力強く訴えていたのが、とても印象的でした。今は、沈黙しているような時ではないんですね。

弁護士 中村 周而

(事務所誌ほなみ127号より)

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