2013年11月1日
公害健康被害補償不服審査会の裁決と水俣病救済制度
熊本県から水俣病認定申請を棄却された水俣市の男性の不服審査請求で、国の公害健康被害補償不服審査会は、10月25日、県の認定棄却処分を取り消し、水俣病として認定することが相当であると裁決しました。男性は99年と02年に認定申請を行い、手足の感覚障害は認められたものの、他の症状との組み合わせがないとして棄却処分を受けていました。
しかし不服審査会は、今年4月16日に最高裁判決が示した「症状の組み合わせがない場合も、個別具体的な判断により認定する余地がある」との考え方に基づいて従来の不服審査会自体の見解を変更し、男性の感覚障害は食生活歴や医学的資料などから「有機水銀曝露によるものと認める以外にない」から、水俣病として認定するのが相当であるとしたのです。
4月16日の最高裁判決は、これまで行政の認定指針とされてきた「昭和52年判断条件」を事実上否定し、「症候の組み合わせが認められない場合」でも、「経験則に照らして諸般の事情と証拠関係を総合的に検討」して「個別具体的な判断により水俣病と認定する余地」があると判示し、「四肢末梢優位の感覚障害のみの水俣病が存在しないという科学的な実証はない」と指摘しました。
最高裁判決後も、環境省はこれまでの認定基準を変更することを否定し、「総合的検討」という運用面での見直しのみを行うという方針を固持しており、熊本県もそれに追随していました。今後は、県知事によって認定申請が棄却されても、不服審査会で救済される可能性が大きくなった訳ですから、環境省としては現行の厳格すぎる水俣病の救済制度の方針の変更を迫られることになるでしょう。
これまで新潟県内で公健法に基づく水俣病の認定申請をした2422人のうち、認定された人は702人で、取り下げたり棄却された人が1699人。認定される人は3割にも満たないため、水俣病被害者が認定を受けることは決して容易ではありませんでしたが、最高裁判決や今回の不服審査会の裁決で、認定制度に対する関心が一挙に高まるでしょう。
問題は、そのことが何を意味するかです。これまで認定申請をしたのに不当に棄却された水俣病被害者は、改めて認定申請を検討するでしょう。また水俣病特別措置法に基づいて救済申請をしたのに、地域や年代による不当な線引きで救済対象者と判定されなかったり、様々な事情で救済申請ができなかった人々も、改めて認定申請を考えるかもしれません。
4月の最高裁判決や今回の不服審査会の裁決を契機に、「認定基準を根本から見直し、一元的に水俣病を広くとらえ、被害を補償する恒久制度を再構築すべきだ。一時しのぎの弥縫策はもう通用しない」(2013(平成25)年11月1日熊本日日新聞社説)という声は、さらに強まることになるでしょう。
(中村周而)
著者:中村 周而
さまざまな問題を依頼者の皆様と一緒に考え、解決をめざします。 最近は、社会の高齢化が進む中で、高齢者をめぐる貧困、医療、介護、家族との関係などさまざまな問題が深刻さを増しています。私もそうですが、団塊の世代を含めた高齢者が、もっと声を大にして問題の深刻さを訴える必要がありそうです。