2013年9月11日
憲法第97条の思想
(事務所誌「ほなみ」第114号掲載)
第10章 最高法規
第97条 「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、この権利は、…現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」第98条 「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令…国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。」
憲法が国の最高法規であることは国民に知られている。しかし、なぜ最高法規であるかについては、三大基本原理(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)が定められているから…と中学校で習う程度で、詳しく教えられることはない。
私が大学1年の法学部生であった頃、憲法学の権威である芦部信喜教授の著書の中で、憲法第10章の「最高法規」の規定の冒頭に、97条が置かれているのは何故かという論文があった。
芦部教授の説明を正確に紹介するには紙面が足りないが、ごく簡潔にいえば、「憲法は、不可侵の人権を保障しているものであるから、最高法規なのである。そのことを明らかにするために、10章の冒頭、98条の前に97条を置いているのである。」と説明されていた。
当時、人権など深く考えたこともなかった私にとっては、芦部教授の明快で説得力のある論述に触れて、目からウロコの思いがした。そして、私は、それ以来、憲法の大ファンとなり、人権に関わる仕事をしたいという思いから、弁護士を志すようになった。
ところが、自民党の憲法改正草案では、97条が削除され、その代わりに、「すべて国民はこの憲法を尊重しなければならない。」と目を疑う条文が入っている。これでは、憲法は国民に対する義務付け法に成り下がってしまう。自民党の憲法改正の基本思想は、この部分に最もよく表れていると思う。
どの政党が政権を握ろうとも、人間にとって最も基本的な人権は奪われることがない。憲法でしっかりと保障されているからだ。日々の生活では意識しないが、少し考えてみると、それが私たちの安心の礎であることがわかる。
しかし、今、「憲法があるから大丈夫」とはいえない国が作られようとしているのである。憲法第97条の思想は守られなければならないと思う。
弁護士 近藤明彦
著者:近藤 明彦
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