2013年9月10日
「あたりまえ」のこと
(事務所誌「ほなみ」第114号掲載)
みなさんは、どこで生活し、仕事をし、生きていくかについて、どうやって決めるでしょうか。
ある人は、仕事の事情で、またある人は家族の事情で決めるかもしれません。私も、九州で生まれ育ちましたが、仕事の関係で縁あってここ新潟の地で弁護士として活動しています。この新潟で生活することについては、自分で自由に選択したものであって、誰かに決められたわけでもありません。
憲法22条1項には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と書かれています。これは、誰でも、自分の生活拠点を自由に決定することを保障するという意味です。ある意味「あたりまえ」のことですが、この「居住・移転の自由」が憲法上保障されているからこそ、誰でも、どこで生活し、仕事をし、生きていくかという、「あたりまえ」の選択をすることができるのです。
では、ある日突然、自分には責任がないのにもかかわらず「ここから出て行ってください」とか「ここは危ないので避難してください」と言われたらどうでしょう。今までの勤務先で仕事をすることも、頑張って住宅ローンで建てた家に住むことも、子どもたちが公園で遊ぶことも、近所の友だちと買い物に行くことも、ある日突然できなくなるのです。そして、一旦そこに住めなくなってからは、いつ戻れるのか、次の生活をどうしたら良いのかについて何も決まらないまま、避難先での生活を続けざるを得ないのです。
また、そのような状況が短期的なもの、一時的なものであれば、まだ元通りの生活に戻れるかもしれません。しかし、2年以上もの間、そのような不安を抱えながら生活することは、どこで生活をし、仕事をし、生きて行くかという「あたりまえ」の選択を自由にすることができない状況にあると言えます。
福島第一原発事故から約2年半が経ちましたが、未だ福島県から新潟県には5000人以上の方々が避難しており、避難者のみなさんの「居住・移転の自由」が保障されていないという状況です。
憲法上保障された基本的人権が保障され、「あたりまえ」のことが「あたりまえ」になるためには、まだまだ避難者支援、復興支援を進めなければいけない状況にあります。
弁護士 二宮淳悟
著者:二宮 淳悟
2010年12月 当事務所入所 ・新潟県弁護士会 東日本大震災復興支援対策本部 本部長代行 ・新潟県弁護士会 憲法改正問題特別委員会 副委員長 ・新潟県弁護士会 糸井川大規模火災対応本部 事務局長 ・日本弁護士連合会 災害復興支援委員会 運営委員 ・関東弁護士会連合会 災害対策協議会PT 委員
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