2014年4月21日
熊本地裁平成26年3月31日判決の問題点(水俣病関連)
水俣病被害者互助会の8人の会員が、国と熊本県、チッソに損害賠償を求めた訴訟で、熊本地裁は、3月31日、3人の原告について220万円から1億0500万円の損害を認めて、被告らに賠償を命じる判決を言い渡しましたが、5人の原告については請求を棄却しました。
今回の判決は、最高裁が、「昭和52年判断条件に定める症候の組合わせが認められない四肢末端優位の感覚障害のみの水俣病が存在しないという科学的な実証はない」として国の認定基準(昭和52年判断条件)を実質的に否定し、水俣病について幅広い救済を認めた平成25年4月16日判決の後に出された最初の下級審判決であり、水俣病の罹患や除斥・時効問題について、どのような判断を示すか、注目されていました。
今回の判決は、除斥・時効問題については被告の主張を認めませんでした。水俣病の罹患については、同居家族に水俣病認定患者がいることや、頭髪水銀値などから3人の原告について水俣病であることを認めましたが、5人の原告については、症状と「高濃度のメチル水銀曝露」との因果関係を否定し、水俣病とは認めませんでした。
判決は、メチル水銀の曝露については、①原告らの頭髪や臍帯のメチル水銀値、②不知火海の汚染状況、③各原告の汚染魚介類の摂取状況を考慮して判断するとし、③については、家族の曝露状況(頭髪や臍帯のメチル水銀値、メチル水銀中毒症発症の有無)も考慮するとしています。また、メチル水銀の影響による中毒症候については、①当該症候の記録に至る経過、②発現内容及びその程度、③メチル水銀曝露との時間的間隔、④上記症候の原因となり得る他の疾患の罹患の有無や程度等を総合的に検討するとしています。また、四肢末端優位の感覚障害等の症候の記録が、メチル水銀曝露の時期よりも相当程度の期間が経過した後である場合には、他の原因について慎重に検討すべきであるとしています。
しかし、被害者の多くは、相当長期間を経て感覚障害が出てくることもあって、頭髪や臍帯のメチル水銀値の測定は殆どなされていませんし、認定基準が厳しいために、申請をしても認定されなかったり、申請自体をしなかった人も少なくありません。今回の判決を適用すると、汚染された魚介類を摂取してから長期間を経て症状が出た多くの被害者が救済されなくなる心配がありますが、判決はこのような点を考慮した形跡はありません。
環境省が、平成24年7月末に水俣病特措法の救済申請の受付を締め切ったため、水俣病被害者が救済を受けるには、裁判以外には、公健法に基づく認定申請をするしかありません。しかし、環境省が最高裁判決を受けて出した水俣病の認定に関する「新通知」は、水俣病患者の切り捨ての指針となっていた昭和52年判断条件を見直すものではなく、むしろ、今回の判決と同じように、メチル水銀曝露についての客観的資料の提出を患者側に要求したり、住民健康調査等の要求を拒み続けてきた行政の怠慢を患者側に押しつけるなど、切り捨て策を強化する部分を含んでいます。
今回の判決を契機に、単に水俣病の認定基準の見直しだけでなく、水俣病の救済制度の抜本的な改革の議論を引き続き深めていきたいものです。
(弁護士 中村周而)
著者:中村 周而
さまざまな問題を依頼者の皆様と一緒に考え、解決をめざします。 最近は、社会の高齢化が進む中で、高齢者をめぐる貧困、医療、介護、家族との関係などさまざまな問題が深刻さを増しています。私もそうですが、団塊の世代を含めた高齢者が、もっと声を大にして問題の深刻さを訴える必要がありそうです。
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