2017年7月11日
医師の年俸に時間外労働手当(残業代)は含まれないとした事例
労働者の時間外労働手当(残業代)の相談を受けることがあります。労働者の皆さんが長時間の時間外労働が行う一方、それに対する時間外労働手金などの割増賃金の支払いが十分にされていないケースが多いです。
一口に「労働者」といってもその業種は多岐にわたりますが、年俸制の医師(勤務医)の時間外労働に対する割増賃金等の支払いはどうなっているでしょうか。
使用者(勤務先病院)の時間外規定に基づき支払われる以外の時間外労働に対する割増賃金を医師の年俸に含めるとの合意はあったものの、時間外労働に対する割増賃金に該当する部分は明らかではなかったという事実関係の下でなされた医師の割増賃金の請求で、最高裁判所が判決を言い渡しました(平成29年7月7日)。
第1審及び第2審は、時間外規定に基づき支払われるもの以外の時間外労働に対する割増賃金を医師の年俸に含めるという合意は、①合理性があり、②自らの裁量で労務提供を制御できたこと、③給与が高額であるため、労働者保護に欠けるところはないとして、医師の請求をほぼ認めませんでした。
しかし、最高裁は、①割増賃金をあらかじめ基本給等に含めて支払う場合、労働契約で基本給等を定める際に通常の労働時間の賃金と割増賃金を区別できるようにする必要があり、割増賃金に当たる部分の金額が実際の時間外労働に対する割増賃金の額を下回るときは使用者が差額を労働者に支払う義務を負うという考えを明示しました(これまでの最高裁の考え方と同じです。)。②今回の事案では、時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨合意されていたが、時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかでなかった。賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定できず、年俸について通常の労働時間の賃金の部分と割増賃金の部分を区別できないと認定しました。③そして、事案の結論として、年俸で時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたとはいえないと評価して、「医師の給与(年俸)に残業代の支払いが含まれない」と判断しました。
最高裁は、「使用者に対し割増賃金を支払わせることで、時間外労働等を抑制して労働時間の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行う。」という時間外労働手当金の制度趣旨を、専門職で給与が高額とされる医師にも妥当させました。結論として妥当であり(給与が高額なのは業務の専門性や業務負荷・責任の重大性などによるもので、時間外労働手当金の支払いも当然に含まれているという考えには賛成できません。)、各報道機関が指摘するとおり、労使を巡る時間外労働手当金の請求に影響を与える判決であると考えます。
当事務所は、時間外労働手当金(残業代)に関するご相談もお受けしています。ご予約は、電話またはメール(受付フォーム)にてお願い致します。
弁護士 加賀谷達郎
著者:加賀谷 達郎
新潟県よりさらに冬が厳しい秋田県で生まれ育ちました(北海道に住んだこともあります。)。縁あって、学生時代を過ごした新潟で、弁護士として活動することができ、嬉しく思います。「弁護士」と聞くと「なるべく関わりたくない」という方が大多数かと思いますが、ご依頼された場合、法律・裁判例を念頭に置きながら、「依頼者の方にとって一番良い解決は何か」を考え、業務に務めたいと思います。雪国育ちですが、スキーはできません。しかし、寒さ・辛さにも耐える我慢強さ、簡単にあきらめない粘り強さには自信があります。TVドラマで登場する弁護士の様な華麗さはないですが、依頼者の方と誠実に向き合い、粘り強く、少しでも良い解決を目指したいと思います。