2014年2月14日
不動産に関する法律相談 不動産の売買契約(その9)
前回の「不動産の売買契約(その8)」では、「BさんがAさんから甲土地を買い土地所有権を取得した。ところが、Bさんが甲土地の登記を移転してもらう前に、Aさんが、甲土地を、AさんとBさんの売買を知っているCさんに売って、甲土地の登記をCさんに移転した。この場合も、Bさんは、原則として、甲土地の所有権をCに主張できない。」と話をしましたが、今回は、「Cさんは、Bさんより先に登記を取得すれば、どのような場合でもBさんに勝つことができるか。」について考えたいと思います。
結論をいうと、Cさんにつき、Bさんに登記がないことを主張するのが「信義則に反し許されない」事情がある場合、Cさんは、Bさんに甲土地の所有権を主張できません(講学上、この場合のCさんを「背信的悪意者」といいます。もっとも、背信的悪意者の考え方は、学者などから強く批判されています。)。つまり、Bさんが甲土地の所有権争いでCさんに勝つ場合もあるのです。
背信的悪意者に当たるかの判断は、Cさんの行為の不当性と、Bさんの権利・利益の保護の双方を考慮して決めるといわれています。具体的に、Cさんに以下①から⑧の事情が1つまたは複数認められる場合、Cさんが背信的悪意者に該当すると考えられます。
① CさんとAさんが、近親者同士または会社とその代表者など、実質的に同一とみられる場合
② CさんがBさんの甲土地の取得を承認し、これを前提とする行動をとっていた場合
③ Cさんが、Aさんの代理人であるなど、AさんとBさんの売買に密接な関係を持っていた場合
④ AさんからCさんへの甲土地の対価が無償または著しく低額な場合
⑤ AさんからCさんへの売却に、反倫理的な意図・目的がある場合
⑥ Cさんが、Aさんに甲土地を売るよう不当な働きかけをした場合
⑦ Cさんが、Bさんの登記取得を妨害した場合
⑧ 甲土地がBさんの生産・生存に不可欠、または、Aさんが多額の資本を甲土地に投入していた場合
それでは、甲土地を購入したCさんが背信的悪意者に当たるとして、さらに、Cさんが甲土地をDさんに売却した場合、登記の移転を未だ受けていないBさんは、Dさんに甲土地の所有権を取得できるのでしょうか。次回の法律相談でお話ししたいと思います。
弁護士 加賀谷達郎
著者:加賀谷 達郎
新潟県よりさらに冬が厳しい秋田県で生まれ育ちました(北海道に住んだこともあります。)。縁あって、学生時代を過ごした新潟で、弁護士として活動することができ、嬉しく思います。「弁護士」と聞くと「なるべく関わりたくない」という方が大多数かと思いますが、ご依頼された場合、法律・裁判例を念頭に置きながら、「依頼者の方にとって一番良い解決は何か」を考え、業務に務めたいと思います。雪国育ちですが、スキーはできません。しかし、寒さ・辛さにも耐える我慢強さ、簡単にあきらめない粘り強さには自信があります。TVドラマで登場する弁護士の様な華麗さはないですが、依頼者の方と誠実に向き合い、粘り強く、少しでも良い解決を目指したいと思います。