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2014年2月23日

水俣病の認定基準に関する環境省「通知案」の問題点

 環境省が、水俣病の認定基準の運用を見直す通知を出すことになったという報道が度々流れていますが、そのなかで環境省総合環境政策局環境保健部長が「公健法に基づく水俣病の認定における総合的検討について(通知)(案)」という文書を作成していることが明らかになりました。

 これまで水俣病の認定審査で使われていたのは、昭和52年に環境庁(当時)が出した「52年判断条件」。それまで使われていた「昭和46年事務次官通知」を改め、感覚障害だけでなく、「症状の組み合わせ」など厳しい条件を必要とするとしたため、多くの被害者が救済を受けられなくなり、各地で加害企業や国や県を被告とする訴訟が起こされました。

 その後、平成16年10月と平成25年4月の最高裁判決や、同年10月の公害健康被害補償不服審査会裁決で、環境省の52年判断条件は実質的に否定され、見直しを求められることになりました。また、昨年の最高裁判決を契機に、「救済の仕組みを筋の通った制度に改めるべきだ」という声も広がっています。

 今回の「通知案」は、「最高裁判決で総合的検討の重要性が指摘されたことを受け、これまでの認定審査の実務の蓄積を踏まえ、52年判断条件にいう総合的検討のあり方を整理した」ものであり、「52年判断条件に変更を加えるものではなく、これを補足するもの」とされています。

 しかし、「通知案」を読む限り、「これまでの認定審査の実務」では何が具体的に問題になり、どのような改善が求められたかについての記述は全くありません。また、水俣病特別措置法に基づく救済措置のあり方も含めて水俣病の救済制度のあり方を全体としてどのようにすべきかについても、深く掘り下げて検討した形跡もありません。今回の「通知案」を作成するにあたって、どのようなメンバーがその議論に参加したのかについても全く不明です。

 とりわけ疑問を禁じ得ないのは、平成16年10月の最高裁判決後に環境大臣の私的懇談会として設けられた「水俣病問題に係る懇談会」(有馬朗人座長)が平成18年9月に公表した提言書の提言が全く採り入れられていないことです。

 この提言書では、従前の「認定基準」では救済しきれないが、救済を必要とする水俣病被害者をもれなく適切に救済・補償するため、「すべての水俣病被害者に対して公正・公平な対応を目指し、いまだ救済・補償の対象となっていなかった新たな認定申請者や潜在する被害者に対する新たな救済・補償の恒久的な枠組みを早急に打ち出す」という提言がなされておりますし、この提言の過程で、「認定基準」の問題について活発な議論が展開されたことが窺われます。

 今回の「通知案」は、まだ「案」のままで、まだ最終的な「通知」ではありません。環境大臣の私的懇談会の提言も可能な限り採り入れ、是非とも被害者の救済に役立つ「通知」にしてもらいたいものです。

(弁護士 中村周而)

著者:

さまざまな問題を依頼者の皆様と一緒に考え、解決をめざします。 最近は、社会の高齢化が進む中で、高齢者をめぐる貧困、医療、介護、家族との関係などさまざまな問題が深刻さを増しています。私もそうですが、団塊の世代を含めた高齢者が、もっと声を大にして問題の深刻さを訴える必要がありそうです。

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