2015年6月9日
水俣病問題の全面解決に取り組む姿勢に欠ける環境省の対応
水俣病特措法の異議申立事件で、3月30日、新潟県は3人の異議申立てを認め、非該当処分を「一時金等対象者」と認める処分に変更する決定をしましたが、環境省には今回の県の認容決定を直ちに受け入れる気配はみられません。また最近の環境省の対応を見ると、水俣病問題の全面解決に真摯に取り組もうとする姿勢がストレートに伝わってきません。
これまで環境省は、特措法には異議申立ての規定がないから異議申立ては受理すべきではないと主張し、熊本県や鹿児島県もこれに従ってきました。新潟県が「県の判定には処分性が認められる」として異議申立てを受理した後は、「国の考え方には変更はない」としながらも、「新潟県と連絡を取りながら審理の推移を見守りたい」としていました。
しかし、県の異議認容決定が出た後、望月環境大臣は5月26日の記者会見で、「異議申立てについては、新潟県の独自の対応と認識しており、環境省としてそれ以上の対応方針はない」ことを表明しました。
しかしながら、今回の県の認容決定は、主文でも、「新潟県知事が異議申立人に対して行った特措法に基づく給付申請を非該当とする処分を、一時金等対象者と認める処分に変更する」としているように、特措法の枠組みの中で出された決定であることは明らかです。環境省は、今回の県の異議認容決定の受け入れに向けて、新潟県と真摯に協議を積み重ねるべきです。
すでに、新潟水俣病の加害企業である昭和電工は、3人の異議申立人に対して一時金の支払いを行うことを表明し、今後、引き続いて異議認容決定が出された場合も同様に対応する意向であることを明らかにしました。
今回の異議認容決定の受け入れについて、昭和電工に一歩遅れを取った感のある環境省ですが、最近の環境省の対応をみると、水俣病の全面解決に向けて真摯に取り組もうとする姿勢がストレートに伝わってきません。
その一つは、5月21日、新潟県の水俣病認定審査会会長を務める西沢正豊・新潟大能研所長が、新潟市で開かれた日本神経学会学術大会で、複数の症状の組み合わせを原則とする国の水俣病の認定制度について、「中等症・軽症」の水俣病被害者への対応が欠けており、見直しが必要であるとの見解を示したことに対し、何の反応も示さなかったこと。西沢氏は、今の認定制度は、「それらの人を救済しようがない仕組みになっている。それが一番の問題だ」と指摘し、水俣病の現状を把握するための被害調査の必要性を強調していますが、環境省には、西沢氏の指摘を受けてどのような改善を図るべきかの説明が早急に求められているといえるでしょう。
もう一つの例ですが、5月31日に県が主催して開かれた新潟水俣病公式確認50年式典の後で行われた「環境大臣と新潟水俣病関係団体・語り部との懇談」でのこと。阿賀野患者会から「水俣病特措法を再開するなど、被害者の全面救済と水俣病全面解決の措置」を取ることや、「今回の認容決定において、国は特措法に基づく療養手当及び療養費の支給を速やかに実施する措置を取られたい」という要望が出されのに対し、望月大臣は、被害者の全面救済に言及せず、異議認容決定についても「新潟県独自の対応」であることを繰り返すだけで、ここでも水俣病の全面解決に真摯に向き合おうとする姿勢がストレートに伝わってきませんでした。
そのためにはどうするのか。環境省関係者は決まって「公健法をしっかり適用する」と答えますが、正面から問題に向き合っていないように思います。まずは西沢氏も指摘するように、「重症以上の人を迅速に認定するためにつくられた基準だけで運用」されている現在の認定制度の在り方をどのように改善するのか、そのことも含めて、水俣病の全被害者をどのように早期に救済するかの展望を示すことが、緊急に求められているように思うからです。
(弁護士 中 村 周 而)
著者:中村 周而
さまざまな問題を依頼者の皆様と一緒に考え、解決をめざします。 最近は、社会の高齢化が進む中で、高齢者をめぐる貧困、医療、介護、家族との関係などさまざまな問題が深刻さを増しています。私もそうですが、団塊の世代を含めた高齢者が、もっと声を大にして問題の深刻さを訴える必要がありそうです。
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