2017年9月8日
不貞行為をした配偶者の婚姻費用分担請求は認められるか
夫婦は、婚姻中はいわゆる生活保持義務としての婚姻費用分担義務を負っています。たとえば会社員の夫が専業主婦の妻や幼い子を残して別居した場合、妻は夫に対して婚姻費用分担請求をすることができます。
しかし、別居に至った原因が、専ら又は主に婚姻費用分担請求の権利者(先ほどの例では妻)にある場合、多くの裁判例では、権利者の分の婚姻費用分担請求は信義則に反するとか、権利濫用として許されないとして、権利者が現に監護している未成熟子の養育費相当分に限って請求できるとしています。請求額全部は認められないが、最低生活を維持する限度の生活費の請求は許されるとした裁判例もあります。
いずれにしても、権利者の有責性は、婚姻費用の分担額に影響するため、婚姻費用分担請求事件では、しばしば義務者側から権利者の有責性を主張して婚姻費用の支払を拒むケースがみられます。有責性の内容としては、不貞が最も多いようです。
以下に紹介する判例もそのひとつ。妻の不貞行為を認定した上で、夫に対する婚姻費用分担の請求は、信義則あるいは権利乱用の見地から、子らの教育費相当分に限って認められるべきであると判断しました(大阪高裁平成28年3月17日決定、判例タイムズ1433号)。
このケースは、子を連れて夫と別居した妻が、夫に対し、婚姻費用の分担を認めた事案です。夫は、妻が別居した原因は、もっぱら妻の不貞によるものであり、妻の婚姻費用分担金の請求は権利濫用に当たると主張しました。
原審は、別居の原因はもっぱら妻の不貞によるものとみることはできないとして、夫に婚姻費用の支払を命じました。
これに対し、抗告審(大阪高裁)は、妻と男性の関係については、ソーシャルネットワークサービスを使い、単なる友人という間の会話とは思われないやりとりをするような関係であると認定。これによれば不貞行為は十分推認されるから、夫に対する婚姻費用分担請求は、信義則あるいは権利濫用の見地から、子らの養育費相当分に限って認められると判断して、原審判の定めた婚姻費用月額を減額したのです。
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(弁護士 中村周而)
著者:中村 周而
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