2009年4月7日
時間外労働が100時間を超える長時間労働による過労自殺に労災認定の決定
時間外労働が月100時間を超える長時間労働を恒常的に強いられ、過労自殺に追い込まれたAさんの遺族が審査請求人となって労災認定の審査請求を求めていた事件で、3月27日、新潟労働局の新潟労働者災害補償保険審査官は、「Aさんの自殺は、会社の業務に起因する精神障害によるもの」と認定し、業務起因性を否定した長岡労働基準監督署長の処分を取り消す決定をしました。
審査請求を求めていたのは、長岡市内の建設会社に勤務していたAさん(当時30歳)の父Sさん。Aさんが、両親や姉と一緒に住んでいた自宅の車庫内で自ら命を絶ったのは平成18年2月10日未明のこと。前日の午前7時30分に出勤したAさんは、その日も残業のために帰宅が大幅に遅れ、自宅にもどったのは翌日午前5時ころ。縊死に追い込まれたのは、それから1時間後のことでした。
Aさんが自殺に追い込まれたのは、時間外労働が100時間(時には160時間)を超える恒常的な長時間労働による過労が原因でした。平成12年2月に入社したAさんは、入社後約2年位で現場代理人として必要な資格を取得。その後、現場代理人として、会社から様々な現場を任されました。平成16年7月13日の新潟県集中豪雨水害の復旧工事や、同年10月23日の新潟県中越地震の復旧工事が重なり、会社でのAさんの仕事量も急増しました。
それにもかかわらず、会社からのフォローは殆どなく、平成16年後半からは、Aさんの帰宅時間は午後11時すぎが常態化しました。ひとつの現場が終わり、達成感を感じる間もなく、すぐに次の現場を担当させられたAさんは、発注者や事業場、下請業者の間に立ち、寝る間も惜しんで一人で対処しなければならない状態でした。
Aさんの精神状態に異変が起こったのは、平成17年12月頃でした。出勤してくると、会社の脇の駐車場に車を止めてシートを倒してボーとしていたことも何度かあり、その頃、Aさんが使っていたパソコンのインターネットの検索履歴には、「自殺」のキーワードがあったことも判明しました。
ところが会社は、平成17年12月、疲労困憊の状態にあったAさんに対し、さらに官庁が発注した新たな工事現場の仕事を押しつけました。しかし、Aさんだけではとても対応できる仕事ではありませんでした。Aさんは、官庁から、納期の遅れや未提出種類を指摘され、さらに他の会社に丸投げをしている疑いがあることを指摘されました。Aさんが自ら命を絶ったのは、官庁がAさんに対して、社長からじきじき官庁に出頭してこれらの事実関係を説明するようにと指示された翌日のことでした。
原処分庁の長岡労働基準監督署長は、Aさんは、平成18年12月に、「精神病症状をともなわない重傷うつ病エピソード」を発病していたと推認されるが、深夜帯に及ぶような長時間の時間外労働を度々行っていたとまではいえず、恒常的な長時間労働は認められないから、Aさんが発病した精神障害は業務上の事由によるものとは認められず、Aさんの死亡も業務上の事由によるものとは認められないとして、父親であるSさんの申請を斥けました。
Aさんは本当に「恒常的な長時間労働」を強いられていなかったのでしょうか。
会社の労働時間の管理は杜撰でした。出勤時は、タイムカードを打刻させて把握していましたが、退勤時間についてはタイムカードに打刻させておらず、正確な退勤時間を把握していませんでした。
しかし、新潟労働局の新潟労働者災害補償保険審査官が注目したのは、Aさんが会社で使っていたノートパソコン内に残されていた各種ファイルの更新時刻でした。この更新時刻が、午後10時以降になっている日数をチェックし、さらに関係者から事情聴取を行った結果、Aさんは、工事の竣工時期や業務が集中する時期には、1ヶ月100時間、時には160時間を超える時間外労働を行っていたこと、その一方で、会社は、Aさんの仕事量が増えて恒常的な長時間労働の状態が続いていたにもかかわらず、会社として何ら対処がなされていなかったと認定し、Aさんの「精神障害発病及び自殺については、業務が相対的に有力な要因であったものと認められる」と判断したのです。
Aさんのような悲惨な過労自殺が起こらないように、会社や関係官庁にも注意を促したいと考えている父親のSさん。過労自殺の再発防止を求めるSさんの取り組みは続きます。(中村周而)
著者:中村 周而
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